2019年5月1日水曜日

ギルガメシュ登場_「神話と占い」(その51)_






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ギルガメシュとエンキドゥ
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『ギルガメシュ叙事詩(紀元前一二○○年頃カッシート王朝の祭司シン・レケ・ウンニニの手で記録されたとされる)』に見られる特徴は、第一に「友情から始まる男性同士の連帯の始まり」と、第二に「(特に娼婦を対象とする)女性蔑視の始まり」、第三に「生まれ変わりや不死を望まず、今このときを大切に生きようという現世主義の芽生え」が確認できることです。


生まれ変わりや不死を望まないということは、必要以上に神に頼らないという、人間の自立精神の顕れです。ここに「見えない神への、盲目的で被虐的な服従からの脱却」を目指す「人間の覚醒」が見えるのです。


男同士徒党を組んで助け合うことは、社会から蔑まれていた男性たちが地位の向上を図る際、大きな助けになったことでしょう。そして「男同士の互助組織」が、身分の高さや有能さ、人柄などの差から生じる主従関係に整理されるや、それは社会改革のうねりを創り出す大きな原動力になるのです。


後代追加されたと思われる第十二の書板(アッカド語、紀元前八〇〇~前七〇〇)には、女神イシュタルの樫の枝から作った楽器(プックとメック)を冥界に落として泣くギルガメシュをエンキドゥの霊が訪(おとな)い「我が主よ、なぜお嘆きになるのですか。心を痛めないで下さい、わたくしがプックとメックをとり戻して参りましょう」と、話しかけます。


エンキドゥはギルガメシュを懲らしめるため神から遣わされた野人ですが、低い身分でありながらギルガメシュに男同士の「友情」を教え、フンババ退治の直前恐怖心から意気消沈したギルガメシュを叱咤激励して「勇気」を教え、神々の呪いを一身に受けギルガメシュの身代わりに死ぬことで「犠牲の精神(挺身)」を教えた従者です。


第一~第十一の書板には「犠牲的精神を発揮する友人」としか描かれないエンキドゥが、後代の作と推測される第十二の書板ではギルガメシュにはっきり「我が主」と呼びかける事実は、それ以前の物語が成立した時代には明確でなかった男性間の連帯が、第十二の物語が記録される頃には中世における騎士集団のように整然とまとまり、内部に位階(ヒエラルキー)を築き上げていたことを示します。



ギルガメシュはエンキドゥに足止めされて「聖婚の床」を放棄し、次に女神イシュタルの誘いを自分の意志で拒み、最後に太古の男たちが「絶対に避けられない」と信じていた「女神の呪い」、つまり女神のタブーを破った祟(たた)りをも、従者エンキドゥを差し出すことでやり過ごした、したたかな聖王です。


こうしてギルガメシュは生き抜き、伝説の王ルガルバンダ(ギルガメシュの父とも)、同ドゥムジに続くウルクの王としてシュメール王名表にその名を記すのです(ウルク第一王朝第五代王)。後代の聖王たちがギルガメシュのやり方を真似たことは、ほぼ疑いがありません。


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ウルクの王ギルガメシュは(女神に褒美を与えられたせいか)(おご)り高ぶり人々を困らせたので、神々の父たる天空神アヌは創造女神アルルに命じ、懲らしめの野人エンキドゥを創らせた。エンキドゥは聖娼シャムハトを与えられて性の喜びを知り、興奮したまゝ狼とライオンを倒してウルクに現われ、女神イシュハラとの聖婚の床へ向かうギルガメシュを戸口で引き留めた。

エンキドゥとギルガメシュは殴り合いのなか友情が芽生え、ふたりは肩を抱き合って泣く。

ギルガメシュはレバノン杉の森への遠征行に、エンキドゥを誘った。森を守る怪物フンババは中空神(風のこと)エンリルの従者で、だから諦めた方が良いとエンキドゥは諫(いさ)めるが、親友ができたギルガメシュは血気にはやり「一緒に新しい道を探しに行こう」と言ってきかない。ふたりはギルガメシュの守護神シャマシュ(太陽神、シュメール名ウトゥ)に加護を祈願し、レバノンへ出かけてフンババを殺す。

戦いのせいで血糊の付いた衣服を脱ぎ捨て、清らかな上着と帯と冠とを身に纏ったギルガメシュに、豊穣女神イシュタル(シュメール名イナンナ)の心が奪われた。


「来よ、ギルガメシュ、わたくしの夫となるべき男。
其方の果実を、わたくしへの贈り物としておくれ。
其方が我が神殿に入るとき、
高貴な祭司らが浄めのため、其方の足に接吻しよう。
諸王、貴族、諸侯らが皆、其方の前に平伏すであろう」


ギルガメシュは憮然とする。
「御身(おんみ)との結婚の見返りに、わたくしが何を差し出せましょう。
香油と、それからお召し物をご所望ですか。
それとも食べ物ですか、飲み物でしょうか。
御身のご所望がそんなものではないと知っているのに、
どうしてわたくしに、御身を娶ることができましょう。

御身(おんみ)は砕けた氷、風も遮れない壊れた扉、英雄を潰す王宮、蓋のない壺、乾かないアスファルト、漏れる皮袋、砂になった石灰石、崩れた城壁、主人の足を噛む履き物です。
御身(おんみ)のお連れ合いの、いったい誰が長く生き延びましたか。
御身(おんみ)の勇者の、いったい誰が天上の住人になれたと言うのです、
みんな冥府の住人ではありませんか。

囚われ人、牧人ドゥムジの腕をあなたは掴(つか)んだ、
そのくせドゥムジのために毎年泣くことを、
あなた自身がお定めになった。
色鮮やかなアラル鳥を愛した御身(おんみ)は、
彼を撃ち、その翼を引き抜いた。
彼は森に棲み、今もカッピー、と、泣くのですよ?  」


拒絶されたイシュタルは憤慨して天上界へ逃げ帰り、父神アヌの前で泣き崩れた。アヌは「自分が始めたことではないか」と娘女神を諫めたが、結局報復の天牛を創造しイシュタルに与えた。しかしこの天牛もエンキドゥとギルガメシュの返り討ちに遭って死に、イシュタルは聖娼を集めて弔った。一方フンババと天牛を殺した天罰(エンリルとイシュタルの呪い)によってエンキドゥは急速に身体が弱り、死んでしまった。ギルガメシュは大いに嘆き、友のため壮大な葬礼を催した。

親友を失ったギルガメシュは死の恐怖にとり憑かれ、中空神エンリルが起こした大洪水のとき方舟を造って生きものの種を守り、大地の神エアから不死の命を授かったというウトナピシュティムに会いに出かける。


長い旅の末に会うことができたウトナピシュティムは、不死になるため六日七夜眠らない苦行をギルガメシュに課したが、ギルガメシュは不覚にもウトナピシュティムの足許(あしもと)で眠ってしまう。しかしウトナピシュティムの妻がギルガメシュを哀れんだので、ウトナピシュティムは「若返りの草」の在処をギルガメシュに教えてくれた。

ギルガメシュはこれを手に入れて歓喜し、パンを割(さ)き、夕べの休息をとり、川で沐浴(もくよく)し、ふと気づくと蛇が「若返りの草」を盗んで行くところだった。不死の草を失ったギルガメシュは地べたに転がって泣き叫び、嘆き悲しむ。しかし限りある生命を受け入れて立ち上がると、ギルガメシュは帰国してウルクの城塞を完成させた。


【メソポタミアの神話】ギルガメシュ冒険譚
ニネヴェ出土の粘土板、アッカド語「ギルガメシュ叙事詩」
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