2019年5月18日土曜日

パラケルスス登場・薔薇十字団の会員規則_「神話と占い」(その68)_






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パラケルススと「薔薇十字団」と「フリーメーソン」
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アラビア錬金術はイスラム神秘主義・イスラム神学にとり入れられ、十字軍以降イスラム世界と関係のできたヨーロッパに伝わります。こうして生まれた「西洋錬金術」を、医術に応用したのがパラケルスス(一四九三~一五四一、オーストリア育ちのスイス人、バーゼル大学医学部教授)です。パラケルススの研究は、西洋医化学の起源とも言われます。


パラケルスス(「〝ケルスス〟を超える」という意味、ケルススは古代ギリシアの医学者。パラケルススの本名はフィリップス・アウレオルス・テオフラスツス・ボンバスツス・フォン・ホーエンハイム)は聖ヨハネの火祭りに学生を煽動し、当時医大の聖典であったアヴィセンナ(イブン・スィーナー。西暦九八〇~一〇三七、イスラム哲学、アラビア医学の権威。ウズベキスタンの都市ブハラに生まれ、イラン各地の宮廷で活躍)著『医学典範』を焚火に投げ込ませたほど急進的な人物で、あらゆる権威に対して牙を剥いた変人ですが、秘密結社「薔薇十字友愛団(略して「薔薇十字団」)」と関わっていたため生涯失脚しませんでした(創設者のひとりと噂される)


魔術への傾倒が強く犯罪秘密結社のような印象のある「薔薇十字友愛団(略して「薔薇十字団」。十七世紀ドイツで注目を集める。伝説の創設者クリスチャン・ローゼンクロイツをパラケルススと同定する説あり)」は、一六一四年ドイツで出版された広報的小冊子や、一六一六年に出たヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエ(一五八六~一六五四)作『化学の婚姻(「薔薇十字友愛団」伝説の始祖クリスチャン・ローゼンクロイツを主人公とする、架空の伝記小説)』を見るだけでは、反社会的な団体と決めつける根拠は見つかりません。しかしながら同会会則の第一に掲(かか)げられる「病気治し」の教義と「〝薔薇〟〝十字〟〝友愛団〟」という異教的な名称が、当時のキリスト教社会にとって挑戦的なメッセージであったこともまた、否(いな)めないのです。


中東原産の「薔薇」は十字軍がヨーロッパに持ち帰ったアラビアの花で、そのため西洋では「薔薇」はアラビア・ペルシアの文化と、イスラム神秘主義の寓意です。「十字」はエジプト・シリア・パレスチナ・アラビアなど、セム語族の秘術たる「因果の車輪」のモチーフ、「友愛」精神はギルガメシュに見出せるメソポタミア発「(騎士道的)連帯」の原点です。「神秘主義」「車輪」「連帯」の寓意をそのまま合体させ「病気治し」の教義を付け足すと、彼らの目指すところが西方教会が否定し続けた、オルペウス教やヘルメス思想、ミトラ教、グノーシス論など「邪教・邪宗」と同じ類であるのは自明です。



「薔薇十字友愛団」は政治的な弾圧を受け、一六四五年、当局の目を眩(くら)ませるため「フリー・メーソン」へ合流します。七世紀か八世紀頃設立され、それまでたんなる「大工(石工)」同業者組合だったフリー・メーソンはこれを契機に秘密結社化したと言われますが、本当にそうでしょうか。


大工(石工)はもともと「神の仔羊=生け贄死を待つ男性」たちが、自(みずか)らの死を待つあいだ生業(なりわい)とした古代の聖職のひとつです《死海文書『ダマスコ文書』など》。その神秘主義的・オカルト(「神殿秘術」というような意味)的な伝統は、後続である薔薇十字友愛団よりはるかに深遠なものがあったでしょう。フリー・メーソンは本来的に、秘密結社だったのではないか、と、わたしは考えています。



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<薔薇十字友愛団の会則>

(1)無報酬で病気治療をする

(2)特別な扮装はしない

(3)毎年決まった日に「精霊の家」で会合する

(4)団員は死に臨(のぞ)んで後継者を選ぶ

(5)「R・C」を紋章に用いる

(6)友愛団の存在は結成後百年秘密にする



【錬金術思想】薔薇十字友愛団の会則
アンドレーエ『化学の婚姻』
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練金導師は広範な学問を体得してのち金の錬成(れんせい)にとり組みますが、占星術はもちろん冶金学(やきんがく)、薬学、医学、神学(スコラ哲学)など膨大な知識はただひたすら自身の精神性を磨くため。学問が「秘儀」であった時代の巫女たちや神官たちに倣(なら)い、挺身(ていしん)の精神を身につけ社会に寄与する実力を養うものです。


そうした努力の末に得られる「賢者の石」は、図象として現われるときはカーバ神殿や女神キュベレーのご神体「黒石」のような「四角い石」か、イエス・キリストの象徴である「珠(「キリストのあがないによる神人合一」を意味)」として描かれます。






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