2019年5月23日木曜日

錬金術練成作業その1・賢者の石を得る_「神話と占い」(その73)_




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星辰(せいしん)と錬金術
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古代エジプトや古代ギリシア・ローマ世界で盛んだった惑星信仰(犠牲中の肝臓に関しての記録など)に、「惑星(天上界=マクロコスモス)と金属、惑星と人体器官(地上界=ミクロコスモス)は照応する」という考えがあります。


太陽(ギリシア神ヘリオス、ローマ神ソル)は「金」、
(ギリシア神アルテミス、ローマ神ディアナ)は「銀」、
火星(ギリシア神アレス、ローマ神マルス)は「鉄」、
水星(ギリシア神ヘルメス、ローマ神メルクリウス)は「水銀」、
木星(ギリシア神ゼウス、ローマ神ユピテル)は「錫」、
金星(ギリシア神アプロディーテ、ローマ神ウェヌス)は「銅」、
土星(ギリシア神クロノス、ローマ神サトゥルヌス)は「鉛」に対応し、
同時に太陽は「心臓」へ、月は「頭」へ、火星は「胆嚢」へ、水星は「肺」、木星は「肝臓」、金星は「腎臓」、土星は「脾臓」へ影響を与えるというものです。


「星辰(太陽、月、星の総称)」のこの支配力を古代人は「運命」とみなし、何らかの要因で惑星間のバランスが狂い惑星の力が弱まったとき、人は病気になると考えました。星辰の影響で起きた病気や怪我には、病んだ器官に対応する金属が有効に働きます。病気を起こすほど力を落とした惑星に、照応関係にある金属が新しい力を与えるからです。この考え方があったため古代人は冶金(やきん)術に熱心でした。古代バビロニアなどで金属の製造技術が早くから発達したのは、装飾品や武器を製造する外(ほか)、医術に用いる目的もあったせいです。


ギリシア世界では金属を含めた宇宙は「四大(水、土、空気、火。プラトン『ティマイオス』など)」から成ると考えましたが、パラケルススはこの説を採(と)らずアラビア起源の〝すべての金属は「硫黄」と「水銀」で出来ている〟とする説へ、新たに「塩」の元素を加え〝七つの金属(金、銀、鉄、水銀、錫=すず、銅、鉛)は「硫黄」「水銀」「塩」から成る=「三元」〟としました《パラケルスス『奇蹟の書=オプス・パラミヌム』》。ちなみにアラビア錬金術由来の「硫黄」と「水銀」は「火(神)」と「水(魂)」の寓意ですが、パラケルススが追加した「塩」は「個体」、つまり人間の「肉体」を寓意したように見えます。


西洋錬金術の作業は、卑金属を銀に変える〝「白い石」を生成する作業=小作業〟と、卑金属を金に変える〝「赤い石」を生成する作業=大作業〟とに分かれます。「賢者の石(哲学の石、思弁の石、など)」は辰砂(硫化第二水銀)と混同され「〝赤い〟石」だと言われますが、これは「統合」の寓意と思われます。水銀の硫化物(硫化第二水銀)を熱すると硫黄が燃えるのと同じ成分の煙を出すことから、辰砂が「硫黄」と「水銀」の二元論を統合する〝創造神的〟物質とみなされていたようです《澤井繁男著『魔術と錬金術』》


練金導師は「賢者の石」を「小宇宙における〝十字架の上のイエス・キリスト〟」、「第五元素(エーテル。アリストテレスが主張した「天界の物質」、水・土・空気・火に続く第五の元素)」などと呼びました。「賢者の石」は彼らにとって〝神的・天界的〟存在なのです。




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賢者の石を得る
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前もってお断りしておきますが、以下、錬成〝作業〟についてはすべてを寓意としてお読みいただき、ただそのイメージだけを追ってください。実際のところ、そのような手順で目的の物質を抽出したり、目的の化合物を生成することはあり得ません。





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<大作業>

「赤い石(賢者の石)」を得るためには、まずその素材となる「第一質料=イリアステル《アリストテレス》」を見つけ出さねばなりません。

「第一質料(イリアステル)」は四大を構成する「第一(動)者=神」の質料、イスラムで言うところの「唯一神の粒子」です(アリストテレスは「存在するもの」をエイドス=形相とヒュレー=質料に分けた。形相=けいそうは目的、質料は素材)。第一質料は自然界のどこで見つけても良いのですが、通常は金と銀を「純化」させて得ようとします。

過程としては金・銀を溶解して「塩」を得、その塩を結晶化し加熱後に分解して、残留物をさらに酸で溶かすと「硫黄」と「水銀」が抽出される手筈です。

「硫黄」は「太陽・王」と呼ばれて男性を象徴、「水銀」は「月・女王」と呼ばれて女性を象徴、両者を「司祭」の象徴である「塩の火」で熱することで、「結合(結婚)」式が行われます。

硫黄と水銀の二原理の結合は「化学の結婚」「両性具有神の誕生」と言われますが、「哲学者の卵」「ヘルメスの壺」などと呼ばれるフラスコに入れ、〝atanor(「自然界の光=不滅の炎」を意味する綴り換え語=アナグラム)〟という蒸留窯(じょうりゅうがま)で熱を加えるだけのことです。天体の動き(「結合は五月に行われなければならない」など、多くの暦的制約がある)を気にしつつ、
(1)「哲学的結婚(反発しながら混ざる)
(2)「黒化(腐敗して黒くなる)
(3)「白化(溶けて白くなる)
(4)「赤化(固まって赤くなる)」という加熱段階を経(へ)
(5)「哲学者の卵」を割って取り出したものを再び溶けた金で発酵させると、完全な「賢者の石(赤い石)」が作れます。

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言うまでもなくすべてが寓意であり、机上の空論です。「第一(動)者=神」たる第一質料(イリアステル)を前もって見つけなければいけないところから、早くも論理が破たんしています。実際の作業では、本物の硫黄と水銀をフラスコに入れ、蒸留窯(じょうりゅうがま、アタノール)で熱したようです。






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