2019年5月24日金曜日
錬金術練成作業その2・金を作る_「神話と占い」(その74)_
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金の練成作業(投影)
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前もってお断りしておきますが、以下、錬成〝作業〟についてはすべてを寓意としてお読みいただき、ただそのイメージだけを追ってください。実際のところ、そのような手順で目的の物質を抽出したり、目的の化合物を生成することはあり得ません。
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<投影>
「賢者の石」を得たあとようやく「投影」と呼ぶ金の錬成作業に入りますが、すること自体は「大作業」よりずっと簡単です。
「投影」では密閉した「哲学者の卵(フラスコ)」に卑金属と「賢者の石(もしくは代用品としての「金」)」を入れ、「蒸留釜(じょうりゅうがま、アタノール)=自然の光」で熱します。
加熱時間はパラケルスス流では
(1)「一日目(太陽)→煆(か)焼」、
(2)「二日目(月)→腐敗」、
(3)「三日目(火星)→溶解」、
(4)「四日目(水星)→蒸留」、
(5)「五日目(木星)→昇華」、
(6)「六日目(金星)→結合」、
(7)「七日目(土星)→固定」、の七日間七段階に分かれ、ゆっくり進みます。
この間練金導師たちは星辰の動きと火加減に気を配り、工房内の礼拝所で燃え続ける「塩」の炎へ、祈りを捧げていれば良いのです。
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このような作業で「賢者の石」や「錬金薬(エリクシル)」、「金」を作ることが不可能なのは練金導師本人もわかっていたのですが《デッラ・ポルタ=一五三五頃~一六一五、『自然魔術』など》、それでも彼らは難解な学問に取り組み、費用と手間のかかる錬成実験を繰り返しました。
ちなみに「賢者の石」は限りなく入手困難なため、「投影(金の錬成作業)」では代用として天然の金が使われます。西洋錬金術は「金」を造(つく)るどころか「金」を浪費する術なのです。
錬成作業を行う場所は、黄道(円)に似たアーチ形の入り口を持つ奥行きのある工房で、礼拝所は東向き、作業所は西向きに配置され、小さな礼拝所に設けられた天蓋の下で「塩」の炎が燃えています。「アーチ形の入り口を持つ奥行きのある工房」を「洞窟」と見なし、その奥に築かれた小さな礼拝所に不滅の炎が燃えている光景を思い浮かべれば、練金導師たちが何をしようとしていたかは明白です。
彼らは、洞窟奥の祭壇で永遠の炎を守っていた、女神神殿の巫女や神官と同じ境遇になる努力をしていました。練金導師たちは巫女たち同様に占星術を学び、冶金(やきん)術・薬学を駆使して病気治し・世直しを試み、修行のため自(みずか)らの肉体を作業のために酷使して、巫女と同じ「神人合一」を目指したのです。
「大作業」と「投影」の工程をよく見てみれば、どちらも
(1)「融合(「哲学的結婚」「煆(か)焼」)」
↓
(2)「死(「黒化」「腐敗、溶解」)」
↓
(3)「消滅(「白化」「蒸留、昇華」)」
↓
(4)「誕生(「赤化、発酵」「結合、固定」)」という、
同様の過程を経(へ)て目的物を獲得するのがわかります。
「融合(女神との性交)→死→消滅→誕生」の形式は、春の芽吹きを招来した古代の豊穣祭や、より強くなるため犠牲死による再生を目指した、古代の成人儀式に似ています。
「自然の光(塩の炎)=蒸留釜、アタノール」で蒸留されたのは、本当に硫黄と水銀だったのでしょうか。練金導師の工房自体が「自然の光(塩の炎)=蒸留釜、アタノール」であり、蒸留されて生まれ変わったのは卑金属ではなく、練金導師本人の心と身体(からだ)だったと考える方が、論理的には自然です。
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