2019年5月25日土曜日

ユング心理学・メリュジーヌの伝説_「神話と占い」(その75)_






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意識の表層に顕(あらわ)れる心の中の理想像「アニマ、アニムス」
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カール・グスタフ・ユング(一八七五~一九六一、『元型論』『自我と無意識の関係』『心理学と錬金術』など)はパラケルススが「最大の人間(「内なる人間=アデク」「原生命=アルケウス」とも表現)《パラケルスス『長寿論』》「人造人間(ホムンクルス)《パラケルスス『子宮論』》の創造を目指すとした点に注目し、「哲学的錬金術の目標が、より高度な自己形成、〝大いなる人間の創出=個性化の達成〟にあったことは疑えない」と断言します《ユング『パラケルスス論』》。そして錬金導師は物質変容の作業に内面を投射し、「大作業」「投影」の工程において自分の〝無意識〟と出会うことで〝自己〟を確立しようとしていた、と、結論づけるのです。


ユング理論は続いて、〝意識=自我〟が〝無意識〟に対峙(たいじ)することは自我に自己への同化を促(うなが)すこと、意識と無意識の「統合」過程が自己であり、個性化であると定義します。


無意識との出会いは人を自我意識的な小さな世界観から解放するもの、世界観の拡大は自身の洞察(とうさつ)と決断で行動するのに必要な判断力を、人に与えてくれると言うのです。



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フランスにレイモンダンという騎士があり、叔父に連れられて狩りに出かけ、猪に襲われた叔父を助けようとして誤って殺してしまった。死のうと思って森を彷徨(さまよ)っていたところ泉の傍で三人の水の乙女に出会い、妖精メリュジーヌと恋に落ちた。

メリュジーヌは土曜日だけは自分を捜さない約束でレイモンダンに城を与え、レイモンダンの子として十人の騎士を産んだが、みんな顔に不穏な妖精の印を抱(かか)えていた。あるとき週末になると不在になる妻の不貞を疑ったレイモンダンは妻を捜し、森で沐浴するメリュジーヌを発見するが、その姿は下半身が水蛇だった。

メリュジーヌは嘆きながら竜となって妖精島アバロンへ飛び去った。しかし夫の城に不幸があるとその三日前には姿を顕し、城壁の上で泣いていたという。


【フランスの伝承】ユング心理学の「内的自己(アニマ・アニムス)
リュジニャン城のメリュジーヌの伝説
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パラケルススは〝第一質料(イリアステル)=唯一神の粒子〟を「土星的なもの(パラケルススは土星を「悪魔の住処=すみか」とまで言った。土星はクロノスなど原初神・宇宙体と照応する惑星)」、「街路に投げ棄てられ、たい肥の山に放り出され、汚物の中に見出せる、もっともつまらない遺棄物」と説明しました《パラケルスス『薬剤書=アルキドクセン』など》


神に向けられたこの故(ゆえ)なき罵倒をユングは「第一質料(イリアステル)に内面を投射し、思いがけず自分の無意識と対決した結果パラケルススが陥(おちい)ったヒステリー」とみなします《ユング『パラケルスス論』》。無生物に話しかけられる幻聴や、水の精メルジーネが立ち昇る現象など女神・精霊の幻覚(心に秘めた理想の人物像、ユングはこれを「内的自己(アニマ、アニムス)」と名づけた)についてパラケルススがくどくど書き残しているのは、ユングの見解では「無意識と遭遇した人間が等しく経験する、精神の一時的な崩壊」によるもの、「心的な限界現象」です。


錬金導師が意味不明な多くの暗喩・造語を用いるのは、ユングに因(よ)れば「内的自己矛盾を克服するという過重な役目が、言葉に負わされたせい」です。錬金導師の自己矛盾とは〝賢者の石とイエス・キリストを同一視するのは、どう言いつくろっても異教的〟である事実から目を逸(そ)らし、自(みずか)らを熱心なキリスト者と信じ続けた矛盾です(練金導師やゲーテなど錬金術支持者はクリスチャン)。ユング曰(いわ)く、自身の内的葛藤にまったく気づかない人間は無意識に誇大妄想的な造語を連発し、誰彼かまわず議論を挑む傾向があるのだそうです。


確かにパラケルススは、まさにそのような性格だったと伝説が伝えます。それでも、わたしには異論があるのです。錬金術が暗喩と造語に覆われているのは、それが神殿秘術の模倣だからです。






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