2019年5月3日金曜日

犠牲祭の終焉、らくだ100頭であがなわれたアブドッラー_「神話と占い」(その53)_






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犠牲祭の終焉
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メッカの貴族クライシュ族ハーシェム家のアブド・ル・ムッタリブは、部族間の争いから何百年も前に埋められてしまった「ザムザムの泉(イブラーヒームが奴隷女ハージャルを砂漠に棄てたあと、乳飲み児だったイスマーイールの足許に湧き出した聖なる泉。イスマーイールはアラブ人の祖と信じられている)」を掘り起こして「ベニ・シャイバ(「老婆の息子」、つまり神殿管理者の意)」の尊称を贈られ、カーバ神殿の水利権を与えられた一族きっての成功者だった。

しかし泉を探索する作業が続いていた若い頃、「祈願成就のあかつきには、そして男の子どもがあと十人生まれたならば、息子のひとりを生け贄に捧げます」と、ホバール神に言挙げしてしまったせいで、長いあいだ心ひそかに悩んでいた。

はたしてザムザムの泉は蘇った。そして十人目の息子が生まれたとき、アブド・ル・ムッタリブの悲しみは最高潮に達する。誓願前にもうけていた男の子二人と合わせた十二人のうち、カーバ神殿の籤に当たったのは生まれたばかり(末子)の最愛の息子、アブドッラー(「神の奴隷」という意味)だったからだ。

アブド・ル・ムッタリブはメッカ郊外の洞窟を訪れ、高名な巫女シジャーに相談する。シジャーは奴隷を買うときの代金である駱駝を神に差し出してアブドッラーと交換すれば良いと助言をし、苦悩する父親は息子の値段を天の秤にかけるため、駱駝の数を十頭づつ増やしながら毎日カーバ神殿で籤を引いた。

十日後、アブド・ル・ムッタリブはやっと当たり籤を引き当てた。そこでアブドッラーの生命は、駱駝(らくだ)百頭で贖われた。アブドッラーとは、のちの神の使徒・第一預言者ムハンマドの、父である。



【アラビアの伝承】駱駝百頭で贖われたアブドッラー
イブン・イスハーク『預言者伝』
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聖王の身代わり役は、父権制社会の広がりとともにアブド・ル・ムッタリブ(使徒ムハンマドの祖父)のような「子どもを身代わりにするのさえ、もったいない」と感じる父親たちの手で聖獣たちに委ねられます。アブドッラーは、イスラム教創始者・神の使徒ムハンマドの父となる人です。






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