2019年5月28日火曜日

上昇と下降・マニ教「プラグマティア」_「神話と占い」(その78)_






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グノーシス論
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ゾロアスター正典『アヴェスター』の終末論「ガーサー」に続いて、ギリシアのザグレウス信仰とゾロアスター教異端ズルヴァン教とミトラ教、キリスト教など主要なところをもろもろ掛け合わせ、グノーシス論的なつぎはぎ宗教「マニ教」を編み出した預言者マーニー(二一六~二七七、ササン朝ペルシアの預言者でマニ教開祖。パルティア貴族の父と同国王族の母の元に生まれ預言者として招命されたが、ゾロアスター教との政争に破れ刑死)の、創生神話を紹介します。


マーニーの神話に登場する「活(い)ける神(ミスラ、ミトラ)」こと「宇宙霊(アイオーン)ミトラ」は、キリスト教では「聖霊」になります。「父と子と聖霊(三位一体)」の「父」は父なる神、「子」は神の子イエス・キリスト、「聖霊」は教会(イエス・キリストの霊が信者に降りそそぐ)、というのが一般的な理解だと思いますが、その原初の姿は宇宙霊(アイオーン)です。ではそもそも「アイオーン」とは何かといえば、要するに「自分の手元の時計だけ少しばかり回転速度を速める〝惑星の〟力」でなかったかと、わたしは考えています。


アケメネス朝ペルシア(前五五〇~前三三〇)がバビロニアの惑星信仰を取り入れて成立したと言われる《ジョン・R・ヒネルズ著『ペルシア神話』》ゾロアスター教異端「ズルヴァン教」は、第一者にアフラ・マズダ神を立てる正統派に対し、両性具有神ズルヴァン・アカラナ(「永遠の時」の意)を第一者に立て、善神オフルマズド=アフラ・マズダと悪神アフリマン=アンラ・マンユの産みの親とするものです。〝無限なる〟ズルヴァンは「永遠の時間」の象徴であり、その原型神はおそらく〝無限の車輪〟死女神カーリーです。


ズルヴァン教の「無限の車輪=永遠の因果」が善と悪を統合する思想は、のちグノーシス論に大きな影響を与え《ジョン・R・ヒネルズ著『ペルシア神話』》、「無性の存在」が〝対立する二者を産み落とす〟思想の原型となりました。グノーシス論において「永遠(至高神)」の使徒として活躍する天使や聖霊は、すると「一時的な時間の顕現」ということになるかと思います。一時的な時間とはたとえば次の一年としての「歳神(としがみ)」や、何かを成し遂げたい人にとっての「実現までの時間」です。古代人の一生は現代人に比べて短かかったので、自分の時間だけ一時的に速めたい人は多かったのではないでしょうか。


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すべてに先駆け、二つの本質が存在した。ひとつは光の大地で、「偉大な父・ズルワーン」である。その外側にもうひとつの本質「暗闇の王・アフリマン」が存在した。暗闇の王(アフリマン)は光の大地に憧(あこが)れて襲撃を試みたが、偉大な父(ズルワーン)は「活(い)ける者たちの母」を呼び出(クラー)し、活(い)ける者たちの母は「原人・オフルミズド」を呼び出(クラー)した。原人(オフルミズド)は五人の息子を伴(ともな)い暗闇の王(アフリマン)の五人の息子たちに立ち向かったが、敗北して肉体を差し出し食べられてしまった。

そこで偉大な父(ズルワーン)は「光の友」を呼び出(クラー)し、光の友は「活(い)ける霊・ミスラ」を呼び出した。活(い)ける霊(ミスラ)はその五人の息子たちと原人(オフルマズド)の救出に向かうが、暗闇の王(アフリマン)の息子たちが原人(オフルミズド)たちを飲み込んでしまっているのを発見した。仕方なく活ける霊は暗闇の王の息子たちの幾人かを殺し、「偽の神、支配者・アルコーン」の遺体に含まれる原人(オフルミズド)の光を濾過(ろか)して取り出し、その帰還のための「光の船」である太陽と月とを創造した。

また偉大なる父(ズルワーン)は「使者」を呼び出(クラー)し、使者は美しい女に化けて残りの支配者アルコーンを射精させた。この精液によって暗闇の王(アフリマン)の娘たちは身ごもったが、流産し地上へ胎児を落とした。その子孫にアダムが生まれ、その子としてエヴァが生まれた。偉大な父(ズルワーン)は無邪気なアダムへ「光輪のイエス」を遣(つかわ)し、命の木でもって目覚めさせる。アダムは自身が暗闇の悪臭の中に倒れていることに覚醒すると獅子のような声をあげて嘆き、髪を掻き毟(むし)り、胸を叩いて泣き叫ぶ。

「禍(わざわ)いあれ、わたしの肉体を創った者たち!  」
(わざわ)あれ、わたしの魂を縛り付けた者たち!  」

こうしてアダムの魂は光の許(もと)へ帰還したが、「偉大なる父(ズルワーン)」の戦いは今始まったばかりだ。光の救出は最後の一片まで、完全なる「原人(オフルミズド)とその息子たち」が回復されるまで、永遠に続く。

【マニ教】予言者マーニーの創生神話
マーニー『プラグマティア』

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魂の上昇理論と二元論に立脚した思想形態は総称して「グノーシス論」と呼ばれます。「グノーシス」とは「秘儀によって得られる覚知」のことです。


始源のとき「原父=永遠の光・アイオーン」に属していた霊魂は何らかの理由で天上界から転落し、中間界にあって下界の物質世界を創造した造物主・デミウルゴスの手で肉体(物質界)の中に幽閉され、霊性を失い、深い眠りに陥ります。これを憂えた原父アイオーンはイエス・キリストに代表される「永遠の光」を人間界へ遣(つか)わし、啓示を授(さず)け個々の覚醒を促(うなが)します。啓示によって覚醒し、本来の自己をグノーシス(覚知)した魂は造物主(デミウルゴス)の支配を離れ救済可能となりますが、寿命を迎えるまではこの世に肉体を持っており、せっかく獲得したグノーシスを持続するため禁欲苦行が欠かせません。






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