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男神(おがみ)たちの逆襲
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メソポタミアを襲った宗教改革・社会改革には、歯止めがかかりません。聖王が継続して玉座を温めれば、男性たちもそれなりの権力を手にします。独自の騎士集団を形成しその中から選ばれた聖王がやがて専制君主化したならば、祭儀として粘土板に記録される神話にも、当然変化が現われます。
聖王たち、つまり男たちの意識改革が一カ所で起きてそれが波状的に世界へ広がって行ったのか、それとも世界同時多発的に起きたのか、専門家の意見は一致してません。
しかしながら地域差があるとは言え、どの文明でも青銅器時代(前三○○○頃~)には父権制社会の芽生えがあり、鉄器時代(紀元前数百年頃~)を迎えるや専制君主としての王権の持続が見られます。
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混沌の中から、最初の者として塩水の「父なるアプスー(穀物神・羊飼いドゥムジの父とも言う)」が生まれた。その母である「混沌の精ティアマト」は自らの真水と息子の塩水とを混ぜ、原初の海を造った。原初の海の泥からはラフムとラハムが生まれ、このふたりからアンシャルとキシャルが生まれ、さらにこのふたりから天の神であり神々の大いなる父でもある「アヌ(豊穣女神イナンナの父とも)」や、「知恵の神で真水のエア」や、その他の神々が生まれた。
新しい神々の活躍にアプスーは不満を募らせ従者ムンムと反逆を企てるが、この計画は知恵神エアの知るところとなって、ふたりは討たれ死体がエアの家の土台にされた。エアは妻ダムキナとこの家で暮らし、ダムキナは四つ眼四つ耳を持ち、口から炎を吐く息子マルドゥクを産んだ。
マルドゥクの偉大さに恐れおののいたアプスー側原初神たちが存亡の危機を訴えたので、「原初の真水ティアマト」がようやく立ち上がる。ティアマトは「戦士キングー」に「天の書板」を与えて指揮権を与え、大軍を整えさせた。ティアマト軍とエア軍とのぶつかり合いが必至となるなか、新しい神々は長老会議を開きマルドゥクを指揮官に選出したが、マルドゥクは「わたしの命令で運命が決まるようになるなら、わたしの下した決定が断じて変えられないようになるなら、引き受けましょう」と、戦闘の見返りに「創造神」の地位を求めた。長老会議はこれを承諾した。
激しい戦いのあと、マルドゥクとティアマトは一騎打ちで雌雄を決することになった。マルドゥクはティアマトの口につむじ風を吹き入れ、矢で体をまっぷたつに引き裂いて心臓を射た。その後マルドゥクはティアマトの体の片方で空を創り、もう片方で地を創った。キングーを殺して、その血から人間を創った。「天の書板」を手に入れて、神々の父アヌに渡した。
【バビロニアの神話】創造神の座を要求する炎のマルドゥク
創世叙事詩『エヌマ・エリシュ』
⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒創世叙事詩『エヌマ・エリシュ』
バビロニアの創世神話に現われる火の怪人マルドゥクは、女神の言うまま冥界へ連れて行かれたドゥムジと違い、命令の遂行にあたり「創造神になりたい」意志をはっきりと表明します。そして自らの力で原初の女神ティアマトを引き裂き「天(命)の書板(「運命の書板」ともいう)」を奪いとって、男性でありながら一度も吊られずに(犠牲式の真似ごとすら経ていない可能性がある)「創造神」の地位を獲得します。。
「天(命)の書板」は、メソポタミアからアフリカに至る広範囲の神話に顕れる共通モチーフです。これらの地域では、創造神はこの世の未来や人間ひとりひとりの運命を書き記した書き付け(予定帳のようなもの)を所有すると信じられ、その一部を開示されたと主張する諸民族が「自分たちこそ創造神直轄下にある選ばれた民(選民思想)」だと主張しました。
『シビュラの書(ギリシアのアポロン神殿の巫女の託宣集)』や『命の書(『ヨハネの黙示録』)』、『コーラン(イスラム教聖典)』の実存とも言える「天界にある神の予定帳」です。
「予言神とは至高神そのものを表す」と、前述しました。「至高神」は当然、創造の力を振るう「創造神」です。既におわかりでしょうが、つまり古代で言う「予言(預言)」とは「創造神の予定」です。
「創造神の予定」は、しばしば「女神の呪い」とも表現されます。ここで言う「女神」は「創造女神たち(豊穣女神、穀物女神など)」のことで、「こうしてやる!(予定)」と言ってしまったあと、その状況を自ら創り出す(実行する)のですから、口にした予定は必ず実現します。
太古の昔(~新石器時代)痛い目に遭ったせいか、父権制社会に移行し男性の手でまとめられた神話に登場する女神は、みんな意地悪で気位が高く、扱いが悪いと人間を恨み、いつも復讐するのに躍起です。だからその口が吐き出す予言は、概(おおむ)ね呪いごとになるのです。
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