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宇宙霊と聖霊
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人間の魂を覚醒させるべく、父なる神の啓示を抱(かか)えて降臨する「アイオーン」は、もとはギリシア世界の歳神(としがみ)で「半神」「神の子」「英雄」「賢者」の総称、「永遠の時間」の擬人化だと言われます。この「アイオーン」がいつ頃独立した信仰に発展したかは定かでありませんが、紀元前五世紀頃にはギリシア各地に神殿が築かれ、紀元一世紀前後キリスト教の成立時代には「宇宙霊」「聖霊」として、盛んに祭儀が催されていました《ヒッポリュトス『全異端反駁論Philosophumena』など》。
その当時アイオーンは神の粒子「エーテル《「第五元素」とも、アリストテレス》」の働きである「プネウマ(「気息」のこと、「スピリト=神霊」ともいう)」と同定されており、そこからアイオーンが元来「至高神の力=至高神の使者」だったとわかります。「神の子」という用語が、古代社会においては作物に実を付けさせる「創造神との融合と再生」を意味した事実は、既に詳述しました。キリスト教やイスラム教で用いる「聖霊(宇宙霊)」という言葉はこの「神の子」概念をバビロニアの惑星信仰と結びつけたもので、「永遠の時間=因果」を書き換える「時間の修正」を意味したようです。
キリスト教の母体のひとつオルペウス教やミトラ教はグノーシス論に立脚した宗教なので、初期キリスト教も当然グノーシス論が主流でしたが、西暦四〇年頃から異端視され退(しりぞ)けられました《ヒッポリュトス(一七〇頃~二三五年頃)『全異端反駁論Philosophumena』、護教教父・殉職者・聖ユスティノス(一○○頃~一六五年頃)『第一護教論』など》。
グノーシス論を維持すれば、教会はイエス・キリスト以前のキリストたちはもちろん、終末の日まで無数の新しい〝光の戦士〟キリストたちに対峙(たいじ)しなければいけなくなるからです。実際たとえば、グノーシス論の影響を排除しなかったイスラム教では、歴史上多くの預言者・賢者が溢れ出て、反社会的活動の元凶となることが珍しくありません(マルコ・ポーロの「山の老人」伝説や十字軍の「暗殺教団=アサシン党」伝説のモデルとなったシリアのニザール派統帥ラシード・ウッディーン・スィナーンなど、一一三○頃~一一九○頃)。
ところで、イスラム教聖典『コーラン』に描かれる人物像のなか、もっとも人気の賢者は「〝預言者〟イーサー」こと、イエス・キリストです。
『コーラン』では、終末のとき裁(さば)きのために降臨するのは神の使徒ムハンマドではなく、「聖霊(ルーフ、語源は「息」)」であって、この「聖霊(ルーフ)」が伝統的にイエス・キリストと解釈されているせいです。イスラム教の終末論では宇宙霊(アイオーン)ミトラの役割は聖霊(ルーフ)イーサー(イエス・キリスト)が担(にな)い、指導者ムハンマドは聖霊(ルーフ)の導きで覚醒する、自(みずか)らの子孫の中に復活すると言われています。
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聖霊(ルーフ)と諸天使が隊伍を整え居並ぶその日、
主(ラップ)のお許しを得(う)ることができ、
正しいことを言える者を除いては、誰にも意見を差し挟(はさ)めない。
それが真実の日のありさまである。
そうしたいと感じる者は、
今すぐにでも主(ラップ)の御許(みもと)へと逃(のが)れるが良い。
実に、差し迫った懲罰(ちょうばつ)について、我々はあなたに警告する。
その日、人は皆、自分自身が行った所業のすべてを
眼前(がんぜん)へ突きつけられることになる。
不信心の輩(やから)は「いっそ塵(ちり)になりたい」とさえ、
願う羽目になるだろう。
【イスラム教】聖典・コーランに顕(あらわ)れるイエス・キリスト
『クルアーン』第七八節「審判の日」
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