2019年4月12日金曜日

女神イナンナの冥府下り_「神話と占い」(その32)_






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身代わりにドゥムジを差し出す女神イナンナ
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豊穣女神イナンナ(バビロニア名イシュタル)は、あるとき姉エレシュ・キガル(アラトゥとも呼ばれる)の統治する冥府クルに赴く決意をし、七つの都市への覇権を手放した。それから七つのメ(神力)を握り締めると額に黒曜石の額飾りを、首にラピスラズリの首輪を、乳房に卵型の双子のビーズを、頭にターバンを巻いて王冠を被り神威の長衣を纏った。胸元には女の恍惚という板を置き、目の周りを男の恍惚という粉でもって黒く塗り、金の腕輪を嵌め、ラピス製の杖と秤を手にした。伝令使で戦士のニンシュブルには、自分が戻らないときは貧者の形でナンナ神かエンキ神に助けを求めるよう言いつけた「知恵神エンキは命の水を持っている。わたくしを死なせることはなかろう」と。

冥府の門に到着するとイナンナは門扉を乱暴に打ち叩いた「開けなさい、門番ネティ。開けないなら勝手に入ってしまうよ」

そうしてネティに用件を聞かれると、イナンナは「お姉さまの地上の伴侶〝天牛〟グガラナが亡くなったので、地上を代表し葬礼のご献杯を預かりに」と、答えた。ネティは女王エレシュ・キガルの宮殿へ入り「七つのメを握り締め、地上の神威で飾り立てたお女中が門の外でお待ちです」と、報告した。

女王は太腿を叩き唇を噛んだが、冥府の常道どおり対処することにして、ネティに「抜け駆けできないよう七つの門に閂をかけ、ひとつ通るたび、ひとつ霊力を剥ぎ取り、聖なる司祭さまを丸裸にしておしまい」と命じた。ネティはそのとおり執り行ったので、イナンナは女王の前に出るときには裸で背が低く、屈んでいた。

イナンナが入ってくると女王は立ち上がった。するとイナンナは空いた玉座へ(座ろうと)近づいたので、同席した判事アヌンナキが見咎め有罪と定めた。女王エレシュ・キガルは死の眼差しを置き、罵り、叩き、腐りゆく死体に変え壁に吊るして置いておいた。


三日後、女神の従者ニンシュブルが創造神エンキに報告し、エンキは形のない生き物カラトゥルとクガルラを差し向け、イナンナの遺体を貰い受けさせた。そうしてエンキが与えた「命の水」と「命の食べ物」でイナンナは甦ったが、判事アヌンナキは「あとで身代わりを差し出すよう」、言いつけるのを忘れなかった。イナンナは七つの門でひとつづつ装飾品をとり戻し、豊穣女神として復活する。しかし判事アヌンナキが派遣した死神ガラたちが周りを取り囲み、イナンナを開放しなかった。

ガラが、イナンナの足許に額づいたニンシュブルに手を伸ばすと、イナンナは「わたくしの大切な戦士です」と拒んだ。ガラが、イナンナの足許に額づいたイナンナの息子シャラに手を伸ばすと、イナンナは「わたくしに讃歌を贈ってくれる息子です」と拒んだ。ガラが、イナンナの足許に額づいたイナンナの息子ルラに手を伸ばすと、イナンナは「わたくしの右手であり左手である息子です」と拒んだ。ガラが手を伸ばしたとき、イナンナの夫・羊飼いのドゥムジ(バビロニア名タンムーズ、〝タンムーズ〟は「ドゥム・ジ・アプス」、〝アプスーの息子〟の短縮)は若い女を侍らせ玉座に座って微動だにしなかった。そこでガラはドゥムジの太腿を掴み、抱えていたミルク桶と笛を取り上げた。イナンナは夫に死の眼差しを置いた。

「連れて行って!  彼を連れて行って!  」

ガラは斧でドゥムジを打った。ドゥムジが悲鳴をあげ天上のウトゥ神へ手を伸ばしたので、ウトゥ神はドゥムジを蛇に変身させ、死の痛みと苦しみから解放した。



【シュメールの神話】シュメール語粘土板「イナンナの冥界降り」
Translated by Diane Wolkstein, Samuel Noah Kramer
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豊穣女神イナンナの身代わりとして差し出される「ドゥムジ(バビロニア名タンムーズ)=息子・血」が、前述したシリア・パレスチナのディオニュソス神です。






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