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創造神の領域「中空」と「内部」
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その昔テッサリア(ギリシア)にエリュシクトンという王がいた。彼は祭壇に香も焚かない不信心もので、あるとき豊穣女神ケレス(ギリシア名デメテル)に捧げられた、聖なる森を冒涜した。
その森には胴まわりがたっぷり十五抱えもある巨大なオーク(樫)があり、樹齢がどのくらいかもわからない老木で、注連縄や花環飾りが張り巡らされ、森の精霊たちが手を繋いで囲む聖木だった。森の中心的な存在だったこの木を伐り倒すよう言われ家臣たちが躊躇すると、エリュシクトンは「女神が愛した木だろうが、女神自身だろうが、俺はかまわず地面に倒してやる」と言って、自ら斧で伐りつけた。
すると生け贄の雄牛が首を斬られたそのときのように、砕けた樹皮の裂け目から赤い血潮が迸った。王は気にせず伐り続け、まわりにいた者は腰を抜かし尻餅をついて震えていた。
やがて幹の中から「わたしはこの木に棲んでいる精霊で、ケレスさまに愛されてます。いまわの際にひとこと予言させていただきますが、あなたは報いを受けるでしょう」という声が聞こえ、周囲の木々をなぎ倒しながらオークの大木が横たわった。
女神ケレスはエリュシクトンに「飢餓」を送りつけた。テッサリアの王はほんの数日で家畜を食べ尽くし、家の中の物や自分の娘まで売って食べ物に代えたが、それでも飢えが治まらず、最後は自らの手足を喰いちぎった。
【ギリシア・ローマの神話】女神ケレスの大木
オウィディウス『変身物語』エリュシクトン
⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒オウィディウス『変身物語』エリュシクトン
「中空」と「樹木の内部(うろの中)」は創造神の領域ということで、研究者たちの意見は一致してます《柳田國男など》。「樹木の内部」は「洞窟の奥」や「荒屋」になることもあります。「樹木の虚」や「洞窟」が「創造神の領域」なのは、入り口の形状が「子宮」、もしくは太陽の想像上の軌道である「黄道」を思わせるからです。
「創造神」と言えば普通「男性神」を思い浮かべるので、「子宮」という指摘には違和感があるかも知れません。ところが「早乙女(さおとめ)」の例で見るように、原始社会では「産む」のは「女性に限られた聖職」であり、原初の創造神は当然「女神」なのでした。
「子宮→母」のイメージからなる創造神の領域は、「産む」外に安全で心地よい「避難場所」も提供します。危機に陥った聖徳太子《『源平盛衰記』》や神の使徒ムハンマド《『預言者伝』》は危機に際し、人が隠れられるほどの大きさはない樹の虚(うろ)=「創造神」の内部に隠れて敵をやりすごします。そこは消滅、発生、転送が自在に行われる四次元空間です。「異界」の正体は「創造神」なのです。
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