2019年4月4日木曜日

人間を生む異界_「神話と占い」(その24)_






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人を生む異界「蟻男(ミュルミドネス)たち」
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至高神ユピテル(ギリシア名ゼウス)と河神アソポスの娘アイギナは恋をし、「アイギナ」と名づけた島で一子アイアコスをもうけた。アイアコスはその島に王として君臨したが、あるとき疫病でほとんどの島民が死んでしまった。

絶望したアイアコスがユピテルの聖木であるオーク(樫)の木を悄然と眺めていると、蟻の長い行列が樹皮の襞の間をせっせと動き回り、小さな口で懸命に穀物を運んでいるのが目に入った。それで思わず「父よ、これと同じ数の市民をわたくしにお与えください。誰もいないアイギナの都を、再び人でいっぱいにしてください!

叶わぬなら、いっそわたしも墓の下で眠らせてください!  」と祈ると、高い梢の先端が、風もないのに揺れてざわめいた。アイアコスは恐怖にかられ、大地に額づいた。それからオークの幹に接吻して父神ユピテルへ敬愛の意を表したが、そんな願いが受け入れられるとは微塵も思っていなかった。


その晩アイアコスは、夢の中であのオークと向かい合って立っていた。オークの木は張り出した無数の横枝に蟻の隊列をいっぱい載せてから、あのときと同じように突然枝を揺すぶって、蟻たちをざ、ざざっ、と、下の農地へ振り落とした。地面に落ちた蟻は見る見るうちに大きくなり、美しく逞しい若者たちに変身した。そうして目が醒めると、王宮の広間は夢で見た若者たちで溢れかえっていた。

【ギリシアの神話】人間を生むオークの大木
オウィディウス『変身物語』蟻男たち
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アイアコスはペレウス(王位空席のテッサリアへ迎えられ、王として君臨。海の女神テティスとのあいだにアキレウスをもうける)の父、ペレウスはアキレウスの父ですから、トロイア戦争の英雄アキレウスの祖父にあたる人です。蟻男たちは英雄アキレウスの兵としてトロイア戦争に参加し、主を守って生命知らずに戦いました。

アキレウスは開戦九年目で太陽神アポロンの矢に倒れますが、蟻男たちはアキレウスの息子ネオプトレモス(ピュロスとも)に連れられて故国テッサリアへ無事帰国、その後ギリシア北西部エペイロス(アルバニア付近)へ移住したとも伝わります。蟻人間の子孫が今もギリシアにいると思うと、つい笑ってしまうのはわたくしひとりでしょうか。

不死身の蟻男」を生む樹木の伝承が明らかにしてくれるのは、古代においては「樹木」自身が「創造神」だったという事実です。と同時に、細い枝が無数に生い茂る「樹木の〝中空〟」あたりは、「創造神の領域」と考えられていたことがわかります。

すると「〝創造神の一部である〟小枝」を持ち歩くことは、創造神の「霊力」そのものを持ち歩くことを意味したでしょう。前段アイネイアースの説明で「小枝がアイネイアースを産み直した」としたのは、小枝にも創造の力があるからです。小さく切り取られようが、ひからびて黄色く変色しようが、細い枝が創造神であることに違いはなく、物語上その霊力に不可能はないのです。







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