2019年4月19日金曜日

デルポイ縁起_「神話と占い」(その39)_







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託宣を述べる神懸かりした巫女たち
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太陽神アポロンを祀るデルポイ(ギリシア)では蒸気を浴びた巫女が神懸かりし、求めに応じて神託を述べました。

キュベレー(トルコ)やウェスタ(ローマ)の神殿など蒸気の出ない神殿でも、至聖所では永遠の炎が燃え続け(樫の小枝を燃していた)、甘い、むせるような香が焚かれていたようです。暑くて息苦しいその洞窟の奥でサリチル酸(アスピリン原料)を含む柳の樹皮や、皮がついたまま火にくべると酩酊状態をもたらす大麦などを用い、巫女たちは幻覚に溺れました。



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あるとき、パルナッソス山(ギリシアのデルポイ)の斜面に亀裂が出来て蒸気がもうもうと吹き上がり、近くにいた羊たちが、みな痙攣を起こして足萎えになるという事件があった。不思議に思った羊飼いが近づいたところ、蒸気を吸い込んだこの男は突然神懸かりになって意味のわからない六脚韻詩(ヘクサメトロン)を吟(ぎん)じた。羊飼いの異変に驚いた住民たちが調べてみると蒸気は山の洞穴から発し山腹へ広がっていたので、この付近を常人には立ち入れない禁忌の地とし、洞穴を大地女神ガイアの神託所とした。

女神ガイアに選ばれ一番最初に据えられた巫女は「ダプニス(月桂樹という意味)」だった。その後神託の神は時代の移り変わりにしたがって海神ポセイドン、裁定の女神テミスへと委譲されてゆき、最後に太陽神アポロンがこの神託所を受け継いだ。

アポロンに殺され、至聖所の地下に埋められた大蛇ピュトンの名に因(ちな)み「ピュティア」と呼ばれたデルポイの巫女は、毒性のある蒸気が充満した洞穴の奥の、煙がたち昇る岩の裂け目に三脚台(宇宙の完全性・女神の三相を象徴する「三脚鼎=かなえ」を模した椅子)を置いて腰掛けた。そして籤引きで順番を決められた相談者が前に出ると、下から蒸気で熱せられ意識朦朧となったピュティアは、神懸かりをし六脚韻詩(ヘクサメトロン)に乗せて神託を宣べた。


【ギリシアの伝承】アポロンの神託所デルポイ起源
パウサニアス「地理史」第十巻  デルポイ
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彼女たちはまた、至聖所を守るため普段から武術の鍛錬に余念がなく、いざとなれば馬術もレスリングも男性以上に巧みでした。一般の人が杖をついてやっと歩いていた時代、巫女たちは三日月型の大鎌や長剣など、祭儀用の刃物を片手に持って自由に走りまわり、跳びはねることができました《ヘパウサニアス『地理史』女祭司アルキダメイアなど》

古代ギリシアやローマの歴史家が、黒海沿岸諸国(東欧とトルコ、ロシアなど)からリビア地方(エジプトを除く北アフリカ)にかけて「かつてアマゾネス(女戦士族)の国だった」と書き残した《ヘロドトス『歴史』など》のは、その地域が前述のとおり女神信仰の強いところで、その結果、好戦的な巫女や女性が多かったせいではないでしょうか。

太陽神アポロンのような男神であっても、その託宣を述べ伝え祭儀を執りしきるのは巫女「ピュティア」の権限です。「セロイ」と呼ばれた男性祭司が置かれていたゼウスの神託所ドドナが珍しい例なのであって、たいていの場合「神の代理人」は女性に限られます。結果、穀物女神の祭儀(巫女が行う)を経なければ種も蒔けない古代社会では「神の権力」、つまり政治力も財力もすべてが女性の独占になるのです。






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