2019年4月16日火曜日

空気のひとつぶに変わってゆく先住民族の神々_「神話と占い」(その36)_






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神話に残された、先住民族の記憶
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古代において至高神ゼウスが「天空神」とも認識されたのは、その原型が「怪鳥(アン)ズー《『ルガルバンダ叙事詩』『失われたエンキの記録』『アンズーと天命のタブレット』『イナンナとフルップの木』など》」や「天空の牛ディアウス《『リグ・ヴェーダ』》」だからという理由だけではありません。また、わたしたちが「天空神=中空神」と「至高神」とを同じものと認識しているのは、たんなる思い込みや迷信ではありません。現代人であるわたしたちも無意識の領域では古代人(石器時代~中世以前)同様、「最高天(神の住居)」と「中空(わたしたのかたわら、現世)」、「最高天(神の住居)」と「冥府(死後の世界)」とが、相互に通じ合っているように感じています。


それはおそらく、染色体の記憶です。ボス猿は一番高い枝に自分だけの巣を作り下段の枝には愛人を囲い、時々通っていたのでしょう。人類はみな、中空の枝で育ち死と同時にボス猿の命令で地表へ落下された、愛人の子たちの末裔なのです。この群れのボス猿は、メスであったろうと類推されています(そうでないと太古の昔の母権性社会の説明がつかない)


ただし「最高天にいる至高神」というイメージは青い丸天井の上に高層住宅のような万神殿があると考えた民族のもので、太陽神でさえ丘の上から暢気に歩いてやってくる(「赤枝の騎士団」英雄クー・ホリンを救う父神ルー)ケルトの神話世界や、至高神(知恵の神オーディン)が老人の姿でヨボヨボと顕れる北方ゲルマンの神話世界などには、論理くさい「天層」はあまり反映されません。



ケルトにとって神々は人間と同じく地平線を駆け抜ける疾風のように俊敏な神なのであり、世界を「地下に根を張り天へ枝を伸ばした世界樹(トネリコの木)」と定義した北方ゲルマンにとっては、世界樹の途中に広がる「中つ国」で暮らす人間の頭上にあるのは、ただ至高神オーディンの館と荒海だけです。


朝鮮文化圏に属していたと思われる日本の神話《『古事記』、『日本書記』》では、赫居世(かつきょせ、新羅=しらぎ王、四世紀中葉~九三五)、首露王(シュロ、加羅=から王、四世紀後半~五六二)同様に「始祖王は聖なる山の上に降臨」しなければならず、便宜上、先住民族である国(くに)つ神が地上に、移住民である天(あま)つ神が「天上(高天原)」世界に居住します。他方、インド・ヨーロッパ語族は自分たち移住民の神々を地(アイルランド神話など)、もしくは中空(ギリシア・ローマ神話など)の身近な場所に置き、先住民族系の神々を「遠い海の向こう」や「地下」「大気」の中に追いやる傾向があります。


たとえばケルト人の先住民族観は、「アーサー王騎士道物語」における魔法使いマーリンの物語が明らかにします。



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先王時代顧問として活躍した魔法使いのマーリンは、アーサー王即位後恋人である湖の妖精ヴィヴィアンに騙され、湖上に浮かぶ巣(枝と魔法で編んだ「塔」ともいう)の中に幽閉されてしまった。アーサー王は消えた廷臣を求め国中くまなく探索させるが、空中に隠されたマーリンを見つけ出すことはできなかった。

やがてマーリンは巣ごと小さくなって人の目では見ることのできない「声」だけの存在になり、最後にはその声も消え入るように小さくなって、アーサーに仕える騎士ガーウェインが偶然湖の近くを通ったとき、「聖杯探査に着手するよう王に伝えてくれ」とだけ言い残し、そのあとは誰にも知覚されない、空気のひとつぶになってしまった。



【イギリスの古伝承】アーサー王と円卓の騎士「魔術師マーリン」
トマス・ブルフィンチ『中世騎士物語』
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アイルランド(ケルト人)の神話では、ミレー族に敗れたダーナ神族(先住民族系神々)は地下に追いやられ、そのあと体長二、三十センチの妖精になり、最後には空気の粒になったと伝えられます。ギリシア・ローマ(ラテン人)神話では、クロノスに敗れたウラノスは引きちぎられた肉片となって大地と海の肥やしになり、クロノスはゼウス(ユピテル)率いるオリュンポス神に敗れたあとは軛を嵌められ、冥府に幽閉されました。神話はその後のウラノスやクロノスについて多くを語りませんが、インド・ヨーロッパ語族の常道どおりならば、やがて空気か砂のひと粒になったことでしょう。


民族の現在構成員である部族の祖神は神々の階層に納まりますが、あまり古すぎる先住民族の記憶はたいていの場合「四大(よんだい、地、水、気、火)」の中へ溶け込みます。インド・ヨーロッパ語族は「四大は太古の先祖たちから成る」と考え、一神教を選択したセム語族は「四大は唯一神から成る」と考えました。一神教では唯一神こそすべての原理であり、民族の祖霊ですらその魂は「神の粒子」から出来ていると考えるからです。だから青い丸天井(「天蓋=てんがい」とも)の下の大気は、インド・ヨーロッパ語族的には「ご先祖さまの粒子でいっぱい」で、セム語族的には「神さまの粒子でいっぱい」です。






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