2019年4月18日木曜日

アッカド王サルゴンのひとり語り_「神話と占い」(その38)_






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女神の使途鳥「鳩」
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ドドナ縁起でゼウスの使徒鳥になっている「鳩」は、本来はバビロニアの豊穣神、愛欲女神イシュタル(シューメール名イナンナ)の寓意(アトリビュート、attribute)でした。ドドナの言い伝えでは至高神ゼウスの妻は(地母神ヘラではなく)天空女神ディオネー(「天女」の原型と見なされている。実際は「ゼウス」という言葉の女性形)で、ふたりの間にアプロディーテ・ウラニア(「天空のアプロディーテ」の意)が生まれたことになってます。

キプロス島を本拠地とするアプロディーテ信仰はバビロニアの女神イシュタルがその原型で、海に囲まれた同地において「海水」「泡」の女神になりました。また、キプロス島民は海洋民族の至高神「〝水の乙女〟マリ」と愛欲女神アプロディーテとを同一の神と見なしたらしく、同地にあったアプロディーテの聖所は「マリ神殿」とも呼ばれました。「〝水の乙女〟マリ」信仰は「カルデアのマリ」という川辺の都市国家に始まり、交易を通じて世界の水辺へ広がったことがわかっていますが、資料が乏しくいまだ謎の多い信仰です。

愛欲女神イシュタル(マリと同じメソポタミア発祥、セム語族の神)・アプロディーテの祭儀は粘土板や碑文(ギルガメシュ叙事詩、サルゴンの伝説など)に見るところ「性交」そのものであり、たとえばマリ神殿の巫女は「神殿娼婦(聖娼)」がその職務でした《ヘロドトス『歴史』など》




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わたしはサルゴン(統治紀元前二三三四頃~前二二七九頃)、強き者、アッカドの王。母は巫女、父は知らない。父とその兄弟は故郷の山の峰々に住まう神々のうちの誰か。わたしはユーフラティス河畔アスピラニに生まれた。

母は蓋を瀝青(れきせい、天然アスファルト)で塗り固めた葦(あし)の籠(かご)にわたしを入れ、川の流れへ托した。川はわたしを呑み込まず、水汲み役人アッキの水がめへ運び入れた。アッキはわたしを養子にして育てあげ、わたしを王の庭師にした。

するとわたしは女神イシュタルに愛され王として君臨することになり、〝漆黒の髪持つ〟美しい人々を五十四年間も統治した。わたしは偉大な峰々をブロンズの斧で打ち砕く。わたしの覇権は山より高く水平線より広い。その大きさは海を三周するほどで、交易都市ディムルンは、自らわたしの手に堕ちてきた。


【メソポタミアの神話】アッカドの王サルゴンのひとり語り
ニネヴェの遺跡で発見された粘土板
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古代において巫女の妊娠は「処女懐胎」と呼ばれ、生まれた子どもは成人を待って聖別され女神の捧げものになる運命です(『ギルガメシュ』に登場する野人エンキドゥやアッカド王サルゴンの物語など)

ゼウス信仰が吸収した女神信仰はイシュタル・アプロディーテにとどまりません。その生母レアはゼウス以前のクレタ島(ギリシア)の至高神、正妻ヘラはセム語の「エル(「神」という意味、エルは牛神)」が名親で北欧では冥界神(つまり至高神。地獄を表す「ヘル」の語源)、しかもレアの処女相とも言われるアルゴス(ギリシア)の「水の乙女」であり、つまるところ至高神ゼウスの母と妻は同一神です。


ゼウスの頭から生まれた戦闘女神アテナは、リビア経由で知恵の女神メティスとしてギリシアに入ったシュメール、カナン(パレスチナ)、フェニキア(北アフリカ)の破壊女神アナテ(エジプトではネート、メデューサとも)が原型、アナテは〝水の乙女〟マリの双子の姉妹です。

もちろん、ゼウスを頂点とする神々の階層(「万神殿」)は女神のみならず海神ポセイドン、海神トリトン、太陽神アポロン、知恵神ヘルメスなど多くの男神たちも吸収しました。しかし相対的には断然女神の数が多く、ゼウス以前の母権制社会が偲ばれます

マルドゥク神の万神殿やバアル神、ラー神、ゼウス神のそれのように、ひとりの男神が頂点に立ち性別不詳の神々(古代においては「神」と言えば女性に決まっていたので、粘土板などの内容から判断できなければ「女神」だろうと推定)や女神たちを下位に抑えた神々の序列は、女性上位社会から男性上位社会への移行期に現われたモチーフと言われます。






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