2019年3月19日火曜日

西洋・魔女の原型バッケー_「神話と占い」(その8)_







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霊杖(テュルソス)と魔女の箒(ほうき)
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ディオニュソス祭に参加する程度であれば、それは肉体の鍛錬となり健康増進に役立ちますが、祭りのあともなお家へ帰らず、バッケーのまま野山を駆け巡る一団の女性たちがありました。彼女たちはディオニュソス神に背いた相手へ襲いかかり、八つ裂きにして生のまま食したと伝えられる、狂信的な信者たちです。


「バッカスの信女」たち、もしくは「(ディオニュソス神随行者=ティアソスとしての)狂女=マイナス」たちと呼ばれるこれらの女性は、普段はおとなしく野山で暮らしていますが満月の夜になると突然暴れ出し、霊杖(テュルスス)を振りながら岩から岩へひと跨ぎに跳躍、その雄姿が夜空高く月を背景に明るく浮かびあがったと言われます。バッケーの伝説は「魔女」の原型となり、跳躍と泉をもたらす霊杖(テュルスス)は中世には「魔女の箒(ほうき)」「魔法の杖」になりました。


バッケーや狂女(マイナス)の狂乱ぶりを、ディオニュソス神は「高い木の梢から覗いている」と伝わります(ペンテウスの物語など)。そしてこの伝説は、ディオニュソスが「樹木神」でもあることを明らかにします。古代で言う「覗く」というのは、「見守る」という意味だからです。ディオニュソスは樹木の上から人間を見守ってくれる、「神と人との中間の神」なのです。


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テバイ王ペンテウス(「悲しみ」という意味)は市中を我が者顔で闊歩するバッケーを嫌い、聖山キタイロンに集めて閉じ込めた。するとディオニュソス神はペンテウスの正母アガウェーや宮廷の女を霊杖で打って信女にし、随行者たちに連れ去らせた。ペンテウスはディオニュソス神にそゝのかされて裸同然のバッケーをのぞきに単身キタイロンへ出かけ、言われたとおり木に登って上から見ていたが、バッケーとなった宮廷の女が木を取り巻いて揺らしたせいでぶら下がって地面へ落ち、狂女(マイナス)となった母に手ずから引き裂かれて死んだ。

 後年、デルポイの巫女ピュティアが命じ、この木をディオニュソス神の御神体とすることになり、彫刻を施して奉った。

【ギリシアの神話】テバイ王ペンテウスの悲劇
パウサニアス『地理史』第二巻コリントス
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