2019年3月29日金曜日

蘇らせる、エリシャの杖_「神話と占い」(その18)_







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(よみがえ)らせる異界の杖「エリシャの杖」
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預言者エリシャは無から物質(油)を取り出し、死人を生き返らせたエピソードがあることからイエス・キリストの原型と見なされている『旧約』預言者です。エリシャの杖は「預言者の杖」と呼ばれるものの代表で、「バッケーの霊杖(テュルスソス)」同様に多くの奇跡をもたらします。


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シュネムの貴婦人は信心深く親切で、家の階上に預言者エリシャのための一室を設け、近くへ来たとき自由に使わせていた。年寄りのエリシャは感激して婦人にお礼がしたいと思ったが「満ち足りた生活をさせてもらってますので」と、断られてしまった。そこで従者ゲハジに相談したところ、ゲハジは「夫が高齢で子どもに恵まれない夫婦ですよ」と話したので、エリシャは婦人を招び「来年の今頃、あなたは身籠もっている」と告げた。

本気にせず「はしためを欺かないでくださいませ」と一笑に付した婦人だが、翌年身籠もって男の子を産んだ。しかしその子は少し大きくになってから「頭が痛い」と言い、母親の膝の上で死んでしまった。婦人はエリシャの部屋の寝台にその子を横たえ、夫の静止も聞かず預言者のもとへ駆けつけた。

婦人はエリシャに会うと「お陰さまで何も変わりありません」と言いながらその足許に縋りつき、預言者の従者ゲハジが引き離そうとしても離れなかった。エリシャはことの次第を察し、ゲハジに自分の杖を預けて「帯を締め、わたしの杖を子どもの顔の上に置きなさい。途中、誰かに会って挨拶されても口をきかないように」と言いつけ、ひと足先に出発させた。

ゲハジは婦人の家へ入り、言われたとおり行ってから来た道をまた引き返して、こちらへ向かう途中のエリシャと婦人に報告した。エリシャは婦人の家へ入り、子どもと二人きりになって主に祈った。それから自分の口を子どもの口に、自分の目を子どもの目に、自分の手を子どもの手に重ねて子どもの身体を暖め、あちこち歩きまわってからもう一度その子の上へかがみ込んでみると、子どもは七回くしゃみをして生き返った。

【ユダヤ教】蘇らせる杖
『旧約聖書』列王記下四「エリシャの奇跡」
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エリシャはここで、①死者の顔へ杖を置く、②時間を置いてしばらく祈る、③自分の生命力(魂)を分け与える、の順番に子どもを復活させています。


この儀式は「死者の生命(魂)を生まれる前の世界へいったん戻し、新しく生まれる生命(魂)として再び受け取る」手順、つまり大昔の人が考えていた「蘇りのシステム」を表していると思われます。

なお、どういうわけか死んで蘇ると魂は目減りするらしく、人を復活させる預言者や眠り姫を目覚めさせる王子はキスをしたり唾をつけるなどして自分自身の霊魂(生命力)を相手に注ぎ込みます。もとの魂(生命力)が弱々しいため、そうしないと助けられた人はすぐまた死んでしまうのです。
 
子どもの顔の上へ載せるぐらいですから、この杖は細くて軽い小枝製でしょう。そして、宛先が黄泉の国なのか天界なのかわかりませんが、エリシャの杖は異界との間で子どもの魂を遣り取りするための、荷札か切符のように使われています。大国主神が退いた「根の堅州国」が底つ国(地下の国)なのか常世の国(永遠の国、楽園のこと)なのか『古事記』からは読みとれないように、黄泉の国と天界の区別は古代においてほとんどありません。






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