2019年3月24日日曜日

女神イシュタルの冥府下り_「神話と占い」(その13)_







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夫を殺して差し出す女神イシュタル
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豊穣女神イシュタルは決意した。イルカラの棲む闇の拠点、入口はあっても出口のない家、復路のない一本道、埃を呑み粘土のパンを食べ、鳥の羽を纏って暮らす死人たち、扉にボルトが埋まる闇の国へ、行ってみようじゃないの。


ここを開けなさい、門番。さもなくば閂をぶち壊し柱をへし折って扉を割ってしまうよ。死人たちを叩き起こして地上へ彷徨い出させ、生者を喰らわせ冥府を死人で溢れさせるよ」

「ご勘弁を、高貴なご婦人。ただいま女王に聞いて参ります」


イシュタルの姉、冥府女神エレシュ・キガル(別名アラトゥ)門番の知らせを聞いて蒼褪めた。「わたくしは味のない食べ物を食べ(メソポタミアでは服喪中は塩を戒める)、妻を亡くした夫の悲しみ、夫を亡くした妻の悲しみ、生まれることなく死んだ幼児の悲しみに寄り添っているのに、蔑(さげす)まれるのは腑に落ちない。よろしい、冥府の儀式で迎えておやり」

イシュタルはこうして冥府の七つの門で門番から装飾品と衣装とを剥ぎ取られて霊力を失い、女王の足許(あしもと)へ裸で横たわった。女王は伝令使ナムタルを呼び、イシュタルを幽閉し刑罰として六十の疾病を与えるよう言いつけた。「目には目の、わき腹にはわき腹の、足には足の、心臓には心臓の、頭には頭の、そうして全身の病をな」

しかし豊穣神がいなければ牛もロバも孕(はら)まない。男は町で女に声をかけなくなり、女は独り寝するようになった。そこで創造神エアが命を持たない美貌のアシュシュナミルを創り、冥府へ送りつけた。冥府の七つの門は叩き割らずともひとりでに開き、女王エレシュ・キガルはアシュシュナミルを寝所へ引き入れた。

そこでアシュシュナミルは、エアに言われたとおりの言葉を言う。
「愛する人よ、冥界神アヌンナキをこゝへ呼び出し、命の木の皮で作った水筒で、命の水を呑ませてくれるよう頼んでくれないか。ちょっと味をみてみたい」と。するとエレシュ・キガルは自らの太腿(ふともゝ)を打ち指を鳴らして叫ぶ「言ってはいけないことを言ってしまった!  美しい者よ、其方は冥府の溝の汚泥を食べ、日陰で暮らし、冥府の敷居を跨ぎ去ることは永遠にない!  」そうして伝令使ナムタルを呼び、イシュタルに命の水を吹きかけ放り出すよう伝えた。こうしてイシュタルは開放された。しかし冥界神アヌンナキがイシュタルの命の身代わりを要求したので、イシュタルは地上へ還ってから夫のタンムーズを水と聖油で浄(きよ)めて殺し、冥府へ送りつけた。


タンムーズの姉ベリリはイシュタルに両手いっぱいの宝石を投げつけ哀悼者を集めて泣き叫ぶ「わたくしのたったひとりの弟を奪う権利は貴女にはなかった。わたくしは男も女もタンムーズのため嘆いてくれる者を集める。そうしてラピスラズリの笛を吹き、瑪瑙の指輪を嵌めていたタンムーズを、地上に復活させてみせる!  」

【バビロニアの神話】アッカド語粘土板「イシュタルの冥府降り」
Translated by E.A. Speiser and George A. Barton

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